J-CLIL西日本支部(J-CLIL WEST)第5回学習会
2021年5月8日(土)にオンラインで行われました、J-CLIL WEST(西日本支部)の第5回学習会の報告です。
日時:2021年5月8日(土)午後4時30分~6時30分 場所:オンライン(Zoomミーティング)
*フィンランド時間午前10時半~12時半
*60名Zoom参加
*講師プロフィールは別紙プログラムを参照
Title(タイトル): Student Agency within Finnish CLIL: Teachers as innovators before and during COVID-19
(学習者主体のフィンランドのCLIL-:COVID-19におけるイノベーターとしての教師たち)
Josephine Moate 講師 ユヴァスキュラ大学
フィンランド国ユバスキュラ大学は、CLILでは長年の研究実績を持つ。しかし、学校教育でCLILが推奨されているというよりも、CLILのように、生徒が主体となって社会に起こる問題を自ら解決しようとする「自律した学習者」の育成について、全ての教科において取り組んできている。また、母語とは異なるもう一つの外国語をもちいる授業という点では、理にかなった外国語教育を受けてきており、国民のほとんどが英語等の外国語でもコミュニケーションが出来るという状況が、CLILを可能にしている。これは、半世紀にわたる教育改革の賜物で、教育改革が加速度的に進んだ、現20~30歳世代の教師は、国際学会レベルでのアカデミックプレゼンテーションに困らない英語力を身に付けている。
今回は、フィンランドの言語教育(英語含む)について、ユヴァスキュラ大学教育・心理学部や応用言語研究センター(CALS)で学ぶ修士・博士院生への、CLIL教員養成プロジェクトを率いてこられたJosephine Moate講師を招聘してワークショップを行った。Moate氏に、大規模プロジェクトとして取り組んでいる【IKI Project(イキプロジェクト)】の具体例を挙げてもらい、フィンランドの教室の工夫や、生徒の自律性を高めるような指導の実際を話してもらった。
IKIコーディネーター Tea Kangasvieri講師
IKIプロジェクトの取組ポイント
IKI Projectのコンテンツ:
教師のための教育法を交えたCoffee Event&セミナーワークショップ &学校観察のフィールド&教師へのインタビュー&ブログと「IKI-tips」出版&ポッドキャストを提供している。
Moate氏は、第2言語習得理論に基づく、クラスルームイングリッシュやティーチャートークの指導も専門で、博士院生らを現地の学校に観察実習に連れていき、院生自身がリフレクションを繰り返しながら学ぶ環境を創っている。Moate氏の教員への指導を見ていると、「指導法を注入する」といった場面がほぼ無く、本物の学校フィールドで子どもらの現象に触れさせ、答えを自分で見つけるようにプロジェクトを組んでいる。ワークショップでは、IKIコーディネーター、Tea Kangasvieri講師とチームを組んで、言語教育のイノベーションについて「いきいきと」語られた。
子どもが自分でパターンを見つける指導
小学校6年生物理
後半は、ユヴァスキュラ大学教育・心理学部講師の矢田匠氏(学校経営専門)、およびイースタンフィンランド大講師の矢田明恵氏(学校心理学・インクルーシブ教育専門)より、フィンランド在住8年の経験から、教育事情について子育て目線を交えて話してもらった。Moate氏らの語りと一貫して、Student Agencyを育てる要素として「子どもが選んで考える・子どもどうしが交渉する・社会と関連した内容を豊かに・人との関係性の中で育む」等が含まれた。
フィンランドの言語教育背景:
フィンランドは、2014年よりナショナルコアカリキュラムに沿って、クロスカリキュラムの推進、デジタルツールの活用と共に、「全ての教科の教師は、言語教師でもあるように。」という方針を示している。小学校3年生で開始していた英語は、小学校1年生からの開始に繰り下げられた。小学校1・2年生の担任は、子どもに英語を教えるのは初めてということも多い。ユヴァスキュラ大学では、教師の指導をサポートするため、幼い年齢の子どもに大切な言語教育について、リサーチコミュニティを創り、IKIコーディネーターを育てている。
矢田匠氏「個のやりたいことを大事に」
矢田明恵氏「子どもが選び考える」
また、英語を義務教育だけのものにせず、大学修士・博士に至るまで、教育の無償化が進んでおり、生涯にわたって学び続けられる教育システムがコミュニケーション力の高度化に貢献している。教師らは、子どもらに培いたいキーコンペテンシーを理解し、地域や保護者、学ぶ側の子どもを巻き込んで、Student Agencyを育てるCLIL的発想の授業が取り入れられている。
子どもを取り巻く言語背景であるが、フィンランドでは、フィンランド語を母語とする子どもが多いが、隣国との境界に住む子どもも多く、スゥエーデン語も学ぶ。また、ロシアやエストニア、ヨーロッパ以南の国からの移民の子どもも多く、「多文化・複言語・複文化の共生」を尊重し、移民の子どもが家庭内で話す言語についての母語継承語教育にも力を入れている。また、広大な土地柄、ディスタンスラーニングの歴史は長く、全ての国民が快適にWifiを使いデジタル教育を受けることは国民の権利で、デジタル教育環境が高度に発達している。第2次世界大戦では「自由と独立」の重要性を痛いほどに経験したフィンランドは、デモクラシーを持続しようと、グローバルシチズンシップの育成に大きな成果を出している国だと言えるだろう。
意見交流Padlet:
参加者に参加してもらい、柏木賀津子委員と、工藤泰三委員は、「Student Agency」と「COVID-19下の学校」について、Zoomブレイクアウトセッションを行った。参加者やJ-CLIL西日本のファシリテーターらが、質問やコメントを、Padletに書きこんで意見を交流した。教育環境や予算では日本の現状との大きな差はあるものの、参加者には授業づくりに関しての共通ポイントを見つけてもらったようであった。
ZoomディスカッションとPadlet交流
Padlet交流での主なコメント例
―国も教師もここまで本気で、生徒の自律性を育成していることを初めて知った。
―英語を教えるときも、母語をすごく有効に使っている。母語で内容が分かる教材資料を組み合わせていて驚いた。
―We talked about how involving the students in the planning and decision making of the role play activity served to engage students.
―Examples of student agency from the presentation include the design of the role play and the activities that were proposed for studying emotions. Student agency can also be present when students choose what language to use and to work with. Teachers can create opportunities for students to be agentic and students need support to become agents.
IKIプロジェクトがプロデュースする革新的な言語教育のマニュアルが公開されました(フィンランド語)
文責(柏木賀津子)
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